MEISSENメモ(86):文学をテーマにした作品のご紹介

文学をテーマにした作品をご紹介します。
 
マイセンには文学をテーマにした作品シリーズが数多くあります。
シェイクスピアの喜劇『真夏の夜の夢』をもとにした「サマーナイト」、
『千夜一夜物語』に想を得た「アラビアンナイト」、
ミュンヒハウゼン男爵の冒険譚『ほら吹き男爵の冒険』をモチーフにした「ほら吹き男爵」などです。
一方、文学作品の中でマイセンは特別なものとして描かれています。
『ゲーテの書簡』には、「廿日(はつか)火曜日は極めて快適な、見学の日だった。
中でもわし達は城に登って、真先に磁器工場を視察した。つまりその貯蔵室を見たのだ。」とあり、
トルストイの『戦争と平和』では、「ナターシャは器用に手早く選り分けはじめた。
『これはいらないわ。』彼女はキーエフ製の皿をさしてこう言った。『これは-いる、これは絨毯の中だ。』と
彼女はザクセン焼きの鉢をさして言った。」など、文豪たちが憧れをもってマイセンを描いています。
*出典
『ゲーテの書簡』:『ゲーテ全集』32巻 木村謹治訳 改造社より
『戦争と平和』:『戦争と平和』米川正夫訳 岩波文庫より
 
文学をテーマにした作品シリーズ

サマーナイト
シェイクスピアの喜劇「真夏の夜の夢」にインスピレーションを得て、
トップアーティストのハインツ・ヴェルナー教授(1928-2019)が1969年頃に創作して以来、
高い人気を誇っています。
真夏の夜をイメージさせる淡いブルーの小花の下絵を描いた後、
金やプラチナをはじめとした多彩色の上絵によって、幻想的な夜の動物や妖精、
そして主人公を細密画風に生き生きとした姿で表現しています。



アラビアンナイト

 
アラビアンナイト
「千夜一夜物語」に想を得てファンタジーを
自由に繰り広げていったものです。
このシリーズはヴェルナー教授の代表作であり、
現代マイセンの「古典」とも称されています。
現代マイセンが生んだ最高傑作のひとつである
「アラビアンナイト」の高い物語性と工芸性は、
見飽きることがありません。


ほら吹き男爵

ほら吹き男爵
本作品は、アーティスト、ペーター・シュトラングの
ユニカート(一点もの)です。
18世紀に実在したドイツのミュンヒハウゼン男爵の冒険譚
「ほら吹き男爵の冒険」の一場面に想を得ています。
空を飛び海を行くという男爵の姿が、
シュトラングらしくユーモラスに表現されています。
 
「ほら吹き男爵の冒険」をテーマとした作品は
ヴェルナー教授が現代マイセンにもたらした
「20世紀の細密画」といわれているシリーズもあります。


メルヘン人形6体セット

メルヘン人形6体セット
手びねりで知られるシュトラングによるデザイン。
子供の頃から親しんでいる楽しい童話の登場人物たちです。
「イバラ姫」(グリム)、「赤ずきんちゃん」(グリム)、「長靴をはいたネコ」(ペロー/ティーク)
「魔女」(グリム)、「ヘンゼルとグレーテル」(グリム)、「カエルの王様」(グリム)


群像「ドン・キホーテとサンチョ・パンサ」

群像「ドン・キホーテとサンチョ・パンサ」
スペインの作家ミゲル・デ・セルバンテスの小説
「ドン・キホーテ」の登場人物をテーマにした作品。
才能あふれるグラフィックアーティストであり
造形家のウィリー・ミュンヒ・ケー(1885~1960)による
ユーモラスな群像です。
オリジナルは1929年に作られました。
二人のキャラクターが見事に表現された逸品です。


人形「メッキーの結婚式」



人形「メッキーの結婚式」
劇作家ブレヒトの最高傑作「三文オペラ」の一場面が、マイセン磁器によって見事に再現されています。
暗黒街で繰り広げられるメッキー・メッサーとポリーの結婚式。
マイセンのアーティスト、シュトラング、ツェプナー、そしてヴェルナー教授の3人は、
ベルリンの劇場でこの「三文オペラ」を観て感動し、この作品をテーマに選んだといいます。
ブレヒトの夫人を実際に訪ねブレヒト自身が抱えていた情熱を聞くことで、作品への思いはさらに深まり、
現代マイセンのひとつの代表作ともいえる「メッキーの結婚式」が出来上がりました。
 

MEISSENメモ(85):群像「宮廷の恋人たち」シリーズのご紹介

群像「宮廷の恋人たち」シリーズをご紹介します。
 
18世紀にフランスで栄えた「ロココ様式」は、マイセンでも大流行し、
ドイツ人が憧れたフランス宮廷の雅びがマイセンにも持ち込まれました。
「宮廷の恋人たち」シリーズは優雅に広がるクリノリン・スカートから「クリノリン群像」とも呼ばれる人形。
原型は1744年に天才造形師、ヨハン・ヨアヒム・ケンドラーに(1706-1775)よって作られたものです。
ケンドラーは、細部まで繊細に形作れて、かつ細やかな絵付もできる理想的なサイズに仕上げています。
まさに小さな磁器彫刻の芸術です。
スカート(クリノリン)の豊かなひだや動きやそこに施された美しい花柄、胸元や袖口のフリルなども見所です。
*クリノリンとはスカートを膨らませるための釣り鐘型フレームのこと。
クリノリン(crinoline)はその素材となった馬の尻尾の毛「クラン(crin)」と麻布「ラン(lin)」を
合成した言葉といわれています。

群像「愛する二人」
品番:73061/900300、高さ:約20.5cm

群像「宮廷の恋人たち」
品番:73067/900300、高さ:約21cm

 

MEISSENメモ(84):
マイセン磁器制作「炎のいたずら」のご紹介

マイセン磁器制作「炎のいたずら」をご紹介します。

焼成の流れ



マイセン磁器の製作は、磁土を形づくり900-950度で素焼きすることから始まります。
900度になるまで15時間、900-950度で30時間、そして15時間かけ徐々に冷ます工程が、
磁土にとって最初の「試練」であり、ここで仕上がったものが次の工程へ進みます。
下絵付(染付)の場合、素焼きしたものに絵付し、釉(うわぐすり)をかけ本焼成します。
本焼成は1450度になるまで15時間、1450度になってから30から72時間かけ、また15時間かけて徐冷します。
人形などの上絵付の場合は素焼きしたものに釉をかけて本焼成し、純白の生地を得てから絵付し、
さらに焼成します。3回目の焼成は約900度。
世界でも最高温による「焼成」は、技術的に最も困難な部分のひとつです。
炉(窯)の中では「炎のいたずら」によるさまざまなアクシデントが起こり、炉が開くまで誰にもわかりません。
中で起こる風はカップの取っ手を人形に飛ばし、立つはずのサギや馬が、
へなへなと膝をついてしまうこともあります。
 
気まぐれな「炎のいたずら」による事例をご紹介します。
 
~白磁制作~
左:コーヒーポットを裁断し素焼きしたものと本焼成したものを比較しています。
素焼き後の本焼成では約16%収縮します。
このポットは8つのパーツからできており、裁断されたポットを見ると
部分によって厚さが異なる複雑な構造をしていることがわかります。
中:素焼きしたカップと施釉後に本焼成したカップのサイズを比較しても約16%収縮してします。
右:サギの本体の重みは焼成補助具にかかっています。
この補助具は磁器の素地から一つずつ新しく作られ、焼成によって人形と同じように収縮します。
1回目の本焼成では、彫像と支えが接している部分は施釉されていません。
そのため1回目の本焼成後、施釉し、次の焼成では支えを取り除いて、もう一度焼成します。



~焼成~
左:カップの取っ手がカップの縁を越えて取り付けられる
デザインの場合には、このような焼成補助具を用います。
右:施釉したカップを焼成する際、
2つのボウルを近くに置きすぎたために、
熱風によって互いにくっついてしまいました。



~変形~
左:約1,400℃の焼成でポットの本体から落ちた取っ手が
取り付け部分から外れ釉薬によって
近くに置かれたポットの蓋に乗っかりそのまま焼成されてしまいました。
右:焼成中の支えから外れてしまったために、
サギの細い脚では柔らかくなった磁器の重みに耐えられず、
脚は曲がり身体が倒れてしまいました。



~溶けてくっついた状態~
左:鍵は吊り下げて焼成されます。
焼成中に位置がずれたことで鍵は落下し
落ちた状態の形に変形し合体してしまいました。
右:約1,400℃の焼成でマグの本体から落ちた取っ手は、
釉薬によって近くに置かれたマグに引っかかりそのまま焼成されました。



~割れ~
群像「ブドウ搾り」には大きな割れがあります。
これは本焼成の加熱工程中の圧力によるものです。
磁器の厚さが異なったり不均質であったり、
もしくは温度が異なることで、
焼成中に磁器に圧力がかかり、さまざまな割れを生じさせます。
素地をよく寝かせ慎重に造形し、
焼成の際には温度や時間、置き方によって、
このミスを避けることができます。



300年以上にわたる職人たちの経験と実験によって、さまざまな対策が導き出されています。
しかし磁器の制作工程と自然の原料の予測不可能な点や、作品の複雑な構造や大きさのために、
時として作品は「炎のいたずら」によって思いもかけぬ姿で窯の中から現れるのです。
 


*マイセンの製品は、マイセンオンラインショップ や、アマゾン「MEISSEN MANUFACTORY SINCE 1710 」
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