「異民族」の人形をご紹介します。
マイセンの人形ジャンルの一つに「異民族」をモチーフにしたものがあります。
18世紀に好まれた「シノワズリー」は、やがて中国人だけではなく「見知らぬ民族」へと興味が広がりました。
これはアウグスト強王が、異民族に興味を覚えたことによるものです。
北西アフリカのムーア人(イスラム教徒の呼称)、インド南西部のマラバル族、ペルシャ人、中国人や日本人などです。
なかでもムーア人は、アウグスト強王の膨大な磁器や宝飾品のコレクションにしばしばみられます。
いずれも当時の宮廷人の東洋への憧れを凝縮した人形たちです。
象に乗るペルシア人とムーア人
「富」を象徴する贅沢な衣装を身に着けたペルシア人と、象使いのムーア人が象に乗った群像。
「ムーア人」とは、一般に北西アフリカ、マグレブ地方のイスラム教徒のヨーロッパにおける呼称で、モール人ともいわれます。
(品番:67019/900380、高さ:約28cm)
ムーア人と馬
ムーア人の褐色の肌と衣服の色の対比、それに躍動感溢れる白馬の形態がこの磁器に命を与えています。
必死に手綱をとるムーア人の真剣な瞳が緊張感をもたらし、単に「人形」という枠を超えた魅力を生み出しています。
(品番:67018/900300、高さ:約41cm)
マラバルの男/マラバルの女
「マラバル族」とは、インド南西のゴアとコモリン岬の間の
マラバル海岸と呼ばれる地方に住む人々のことです。
この地は山に囲まれた肥沃な土地で、ココヤシやカルダモン、
胡椒などの香辛料などが栽培されています。
本作品の原形はフリードリヒ・エリアス・マイヤーが
1750年頃に作成したといわれます。
マイヤーは、この人形にできるだけ見慣れない服装をさせ
「異国の人々」というテーマを強調しました。
またロカイユという装飾の施された台座に、
マイヤーらしいロココのおもかげが残されています。
(品番:67035/900380、高さ:約18.5cm、
品番:67036/900380、高さ:17cm)
木陰の中国人男女
あずまやで憩う二人の中国人。手びねりで作られた美しい花や透かし彫りが作品の工芸性を高めています。
実際のアジアをそのまま写したのではなく、豊かな想像力によってよりエキゾチックなものになっている点も特徴です。
(品番:65640/900300、高さ:約19cm)
鳥籠を持つ中国人男女
幼な子に鳥かごを見せる男性。そして椅子に乗り手を広げて中を見ようとする子供を母親がやさしく支えています。
日常のひとこまを想像力豊かに表現した作品です。(品番:65641/900300、高さ:約16cm)
日本人(女性)
マイセンのアーティストによる、美しい日本の芸妓です。
作品からは茶道や邦楽、舞踊や書などさまざまな伝統芸を修得した芸妓の内面から滲み出るような教養が感じられます。
マイセンが憧れてやまない東洋の美を体現したような逸品です。(品番:65677/900184、高さ:約16.5cm、2012年世界限定作品)
日本人(男性)
オリジナルは、アール・ヌーヴォー様式の時代の重要なデザイナーの一人、アルフレッド・ケーニッヒが創作しました。
男性がまとっている「ゆかた」は伝統的な日本の着物のひとつで、東洋的な文様が豊富に施されています。
(品番:65676/900384、高さ:約18.5cm、2013年世界限定作品)
MEISSENメモ(75):絵付「インド文様」のご紹介
東洋調の動・植物を描いた「インド文様」をご紹介します。
マイセンの数多い絵柄の中でも、初期に作られていたのが「インド文様」。
マイセンの生みの親、アウグスト強王の膨大な東洋磁器コレクションに影響を受けたもので、
1720年「東洋のものを真似るように」という指令が出されたことに始まります。
当時オランダの東インド会社によりヨーロッパにもたらされた東洋の磁器は、
東インド会社にちなんで「インド文様」とよばれました。
特徴的な色の青・赤・緑、また代表的な図柄である鳳凰やドラゴン、菊などは人気を博しました。
これらの色彩や文様、その数には、「祝福や平和」「季節」といったさまざまなシンボルや意味が隠されています。
マイセンには現在でも「インド文様」の絵付部門があり、最も高度な技術が必要とされています。
(左)想像上の動物が描かれています。
「8」は「永遠」を意味する縁起の良い数であることから、フォームにもその形が生かされています。
(品番:300110/55836、容量:約190ml)
(右)コーヒーの香りが立ち上る長細いカップには正面に窓枠を取ってインド文様が描かれています。
ソーサーの余白には鳳凰をアレンジした鳥が舞っています。
八角形のカップの黄色い地色は均一な焼成が困難な色として知られ、このクラシックな柄に彩りを添えています。
(品番:381610/55835、容量:約200ml)
(左)余白を生かした気品ある絵付で知られる柿右衛門様式の影響を受けて生まれました。
マイセンが描く「冬の三友」(松竹梅)です。(品番:455110/00501、径:約18cm)
(中)東洋的な花模様が印象的なこの絵柄は「インドの花」と名づけられ、今日まで高い人気を誇っています。
(品番:351510/00501径:約18cm)
(右)「その足は虎のごとく、爪は鷹のそれに似たり...」遠いむかし、
中国の人々は龍(ドラゴン)の姿をこのように表現しました。
もともとは中国や日本の磁器に描かれていた「赤いドラゴン」が、1730年頃からマイセンでも作られるようになり、
1918年までの長い間、この「赤いドラゴン」はザクセン王室以外、使用することが出来ませんでした。
そのバリエーションとして青や黄色、緑などのドラゴンがあります。
二頭のドラゴンは時計とは逆回りに細長く体を伸ばし弧を描いて躍動感に溢れ、
反対に両側の装飾は静止していて調和のとれた対照を見せています。中央には二羽の鳳凰が組み合っています。
「宮廷の華」といわれたマイセンのドラゴンは象徴に溢れた非常に印象的なデザインです。
(品番:320610/00501、径:約18cm)
(左)中国で長寿のシンボルとされる「蝶」。典型的な柿右衛門様式とされる伝統ある絵柄が描かれた酒器。
(品番:393110/SET、ボトルの高さ:約22cm)
(右)舟をかたどった文様の上に華やかな花を描きました。全体を引き締める紺色が効果的に使われています。
(品番:50272/457110、高さ:約25cm)
(左)プラーク「シノワズリー」。中央に岩を様式的に描き、そこから左右に花咲く枝を伸ばして鳥を止まらせました。
左右を非対称にしたことで古典的な中にも躍動感が生まれています。
(品番:58263/963201A、額装サイズ:46×56cm)
(右)つがいの鳥と色鮮やかなユウゼンギクが、日本的な余白の中に描かれています。
(品番:58010/595001A、額装サイズ:56×56cm)
<インド文様のシンボルのご紹介>
竹/抵抗力のシンボルであり、人生の嵐に曲がっても決して折れることのない「完全なる人間」を体現しています。
菊/控えめな態度、謙虚さの象徴。また秋の哀愁も表わしています。
ドラゴン/ドラゴンと鳳凰の組み合わせは、皇帝(ドラゴン)と皇后(鳳凰)の権力、
そして「宇宙と地球に祝福と平和を」という願いを表しています。
また仏教の8つの宝(お金、書物、宝飾品など)の組み合わさった「リボン」と共に描かれることで、
「空と大地」の均衡を表しています。
カササギ/カササギは中国で幸運を運ぶ鳥。
カササギが家の前で鳴いていたら、もうすぐ歓迎すべき来客があるであろうという印です。
蝶/変化、美、はかなさのシンボル。しかしまた、精神、不死の印ともされています。これは、輪廻、復活を示しています。
虎/権威、勇気、毅然とした態度のシンボルです。
また虎と松竹梅の組み合わせは、長寿、強さ、忍耐、そして精神と物質の対立する力を表しています。
水、波/水は二重の意味をもつ基本的なシンボルで、一方では生、肥沃を、他方では沈没、滅亡を表しています。
松竹梅(冬の三友)/一年中緑の松は、忠実、長く続く友情を表しています。
竹は完全なる人間を、梅は、花が葉より前にあらわれ、すでに2月に咲くことから、強さ、女性の美と不死を表しています。
獅子/力と勇気の強さのシンボルです。
MEISSENメモ(74):絵付「シノワズリー」のご紹介
磁器絵付用の顔料(絵具)を開発した天才的な絵付師、ヨハン・グレゴリウス・ヘロルトが確立した
絵付「シノワズリー」をご紹介します。
当時のヨーロッパ人にとって、どこにあるかもわからない
神秘的な世界であった中国の生活を描いたのが
「シノワズリー」です。
ヘロルトは17世紀後半に流行していた
旅行文学の銅板画による挿し絵を参考に、
自分たちとは反対の理想化した非現実的象徴として
描いています。
またヘロルトは1724~25年に、「ヘロルト・シノワズリー」の
何千という個々の場面を描いた細密画のスケッチブックを
完成させました。
そのオリジナルは今日ではライプツィヒの工芸博物館に
保管されていますが、マイセンはそれらを複写したものを保管し、
それを手本に描いています。
細密画の分野ではかなりの高度な技術を要するため、
マイセンのマイスターの中でも数人しか
描くことができません。
熟練された技術によってのみ描くことのできる細密画は、わずか3cmに満たないほどの人物像も非常に繊細に描かれています。
「シノワズリー」はヨーロッパ人にとって、ヘロルトが磁器絵画の中に実現させたこの世の幸福のユートピアであり、
現在でも私たちに当時の夢や華やかさと落ち着きを与えてくれる絵付だといえます。
なお、マイセンでは中国人を描いたものを「シノワズリー」と呼び、東洋調の動・植物を描いたものを「インド文様」としています。